生命誌研究館訪問

 前回のブログ1)で、中村桂子氏と書籍を紹介した。先日の大阪出張の際、「JT生命誌研究館」2)まで足を延ばした。氏が2002年から2代目の館長を務めている。初代館長が、京都大学名誉教授の岡田節人(ときんど)氏。筆者は「からだの設計図:岩波新書」等を読んでいる。

 1993年、研究館は日本たばこ産業(株)により設立された。大阪と京都の中間の高槻市に存在する。まず、JR 大阪駅より京都線で8つ目の高槻駅まで移動。ここまでが20数分で、駅前商店街を散策しながら徒歩10分ほどのところである。JT医薬総合研究所の一画を占める。

 館内は、4フロアに別れている。3階と4階は研究フロアなので、観ることができる範囲は限られている。4階中央に中庭があり、食草園となっている。植えられている植物を食べるのは、ヒトではなく蝶である。蝶の進化と食草の関係は、本館の重要な研究テーマである。

 蝶の話題になったら、1階のコーナーに移らなくてはならない。屏風6曲3双(写真)の右端1双に描かれている「蟲愛づる姫君(むしめづるひめぎみ)」である。このお話をご存じだろうか。平安時代以降に成立した短編物語集「堤中納言(つつみちゅうなごん)物語」3)の1編だ。毛虫を愛でる変わり者の姫君の話である。

 あらすじを説明しよう。近隣の童たちに毛虫を捕らせて、観察を楽しむ姫君がいる。侍女たちは逃げ惑うが、「蝶や花が美しいというが、蝶の本質がこの毛虫である」という。また、年頃なのに、「取り繕うのはよくない」といって化粧(お歯黒、眉毛剃り)を一切しない。

 姫の噂を聞いて、興味を覚えた右馬の佐(うまのすけ)という御曹司が目立たないよう女装して様子を見に来る。気付いた姫は隠れるが、右馬の佐は器量のよいことを確認。和歌などで関心を引こうとするが、相手にされない。最後は、二巻に続くとあるが、二巻はない。姫の将来がどうなったか、気になるところだ。それでも、姫の遺伝子は現代に続いているに違いない。さかなクンを思い出したものだ4)。

 他のコーナーにも、触れておこう。関心があったのは、宮田隆氏である。「分子進化学への招待:ブルーバックス」等の書籍を読んでいる。この内容を含む1階ゲノム(進化)に関するコーナーがよかった。本館は、どの展示も一般人の理解を深めるための配慮が感じられ、科学(リスク)コミュニケーションを実践している者として大いに参考になった。

1) https://blogs.yahoo.co.jp/teckno555/69563105.html

2) JT生命誌研究館: http://www.brh.co.jp/

3) 堤中納言物語,角川文庫(1963)

4) http://blogs.yahoo.co.jp/teckno555/68901262.html